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草稿

創作の作業場。ネタや草稿を書き散らすところ。

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年表

イエラダ国暦

210年 : ヴァラシュ誕生

217年 : ラクエラ(及びマリエル)誕生

226年 : ダミエル事件発生

227年 : ラクエラ当主就任

236年初秋 : ラクエラ拉致事件
236年秋 : ラクエラ記憶喪失に
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各種設定


▼ティエランドール

神竜ティエラドと誓約を交わした一族。
現在では傍流を合わせていくつかの家名に分かれているものの、その血脈は途切れることなく続いてきた。
【大いなる魂の力】と呼ばれる能力を操り、死してなおその意識を残す神竜ティエラドと交信することができる。
【力】の詳細は極秘とされているが、魂を媒介してあらゆる事象に介入することができると云われている。ただし、かつてと比べてその血は薄まっており、能力そのものも弱くなっている。
現在の当主はラクエラ。前の当主はラクエラの祖父。

直系であるブロイクンはイエラダ建国の際の功績によって伯爵位を授与された貴族だが、現在、王都とのつながりはあまりない。

 ▽一族
ブロイクン : 直系一族。当主の家柄。ラクエラのみ。
アロワース : 襲撃により断絶。ダミエルはこの家の養子となった。
ウィルクス : ステファニアンとその妹、甥が残っている。

▼ダミエル事件

ダミエル・アロワースによる、ティエランドール襲撃事件。
この襲撃によって、一族のほとんどは殺し尽くされ、ラクエラを含む十数人のみが生き残った。ブロイクン伯爵家の生き残りはラクエラのみだったため、自動的・強制的に当時10歳のラクエラが当主に就任し伯爵位も継ぐことに。

ダミエルはティエランドールの【力】は欠片も持たなかったが、魔術の才には恵まれた。その凶悪的な魔術によって、わずか三日のうちに数多の死をもたらしたとされる。

▼イエラダ王国
舞台となる王国。建国二百年余りの小国だが、現在は周辺国との関係も良好で平和な時代にある。

登場人物一覧

●ラクエラ・ブロイクン=ティエランドール

女。19歳。166㎝。
亜麻色の巻き毛に琥珀の目。
ふっくらとした女性らしい体つきで、表情豊かな美貌。

誓約の塔の女主人。唯一残された直系として、10歳で当主に就任した。
若年ながら【大いなる魂の力】を自在に操る優秀な魔術師。
聡明かつ善良、毅然とした美貌の令嬢として、町の学徒らにも慕われていた。素顔は以外に年相応で、家名と役目に誇りを抱きながらも、制約の多い生活に鬱屈を抱えて自由を夢見る少女だった。

 ▽記憶喪失後
暗闇と人との接触を恐れるようになった。文字の読み書きができなくなった代わりに、以前は疎かった家事などの生活の知識を持っているよう。
表情は薄く、始終ぼんやりとして、ひっそりとした乏しい気配を纏うように。ただし、意外と記憶力は優れている様子。
寂しげな目が特徴的。
自ら嗜好を口にすることは少ないが、甘いミルクティーと干し葡萄、羊毛の手触りが好きな模様。

●ヴァラシュ・カーツ

男。26歳。183㎝。
黒髪、こげ茶の目。
よく鍛えられたしなやかな体つき。肌は日に焼けなめし皮のよう。

ラクエラ捜索のために王都から派遣・転任した塔の騎士。
皮肉気な笑みと口調が特徴的。不真面目なわけではないが、抜ける手は抜き、臨機応変を主義とするために、生真面目なルッツとはたびたび意見がぶつかることも。
以前のラクエラを知らないことから、記憶を失った彼女にとって幾分気安い存在として頼られることになる。
西部辺境の出身で、故郷には両親と三人の弟妹がいる。毎月の仕送りは欠かしたことがない。

●ルッツ・エイドリーズ

男。28歳。177㎝。
薄茶の髪、薄い緑の目。
やや細身で、日に焼けづらい白肌。

祖父の代からティエランドールに仕える騎士の家柄。父は襲撃事件の折に殉死している。
ラクエラにとっては幼馴染にも相当する存在で、昔から彼女に心酔している部分がある。ラクエラの記憶が戻ることを切望する代表格。
努力を惜しまない生真面目な性格だが、反面、融通が利かず追い詰められやすい性格でもある。

●ダミエル・アロワース

男。金髪、水色の目。
長身かつ痩身。顔色が悪く不健康な雰囲気。

ラクエラの祖父の庶子。母は王都の令嬢であったとも娼婦だったとも言われるが、定かでない。
【大いなる魂の力】を持たずに生まれたため、一族には認められず、使用人のような扱いで引き取られた。
魔術の才には恵まれていたが、周囲の陰口と偏見のさなかで疎外感に襲われながら育ち、いつしかティエランドールに対する憎悪を抱えるように。
10年前の襲撃事件の犯人であり、事件で殺されたと目されているマリエルを密かに誘拐した人。

●マリエル・ブロイクン=ティエランドール

女。享年9歳(公的には)

ラクエラの双子の妹。
ラクエラ以上に【大いなる魂の力】を完璧に操る才能を持ち、望むだけで神竜との交信できたほどに稀有な存在だったが、ダミエルの襲撃事件によって行方が知れなくなり、彼によって殺されたと目されていた。
実際はダミエルにより拉致され、実験の被験者として囚われていた。
ダミエルによって魂と肉体を分離させられ、その魂は木偶の躯に宿されていた。

現在、ラクエラの肉体に宿る魂こそ、マリエルのそれである。

後には、【マリエル・ファローナ・ブロイクン=ティエランドール】と名乗る。

●ステファニアン・ウィルクス=ティエランドール

男。31歳。171㎝。
栗色の巻き毛、水色の目。
少々太り気味で、愛嬌のある穏やかな顔つき。

襲撃事件の生き残り。
ラクエラにとっては従兄に当たる。父の姉の息子。
10年前の事件の後遺症で右足が不自由なため、杖をついている。
剣の腕、【力】ともに程々の力量だが、ものを教えることには長けているため、事件後は幼いラクエラの家庭教師を務めていた。
ラクエラにとっては兄のような存在である。

●イヴィサ・コルドロン

女。36歳。174㎝。
癖の強い黒髪に緑の目。
引き締まった筋肉質な体つき。

塔の騎士を取りまとめる女騎士団長。
男顔負けの剣の腕と鋭い頭脳を誇り、自らの信念に沿って生きる女。権力者に対しては嫌悪感を抱いており、そのためにかつて王都の騎士団を追われた経歴を持つ。
その後、ラクエラの祖父に拾われ塔の町の騎士団に居場所を得るが、直後にダミエル襲撃事件が発生。その際の働きを評価されて出世したが、彼女自身はそのことに対して多少鬱屈した思いを持っている模様。

1

午後の日差しが、石柱の並ぶ回廊を明るく照らしていた。
空は高く、雲は優しい色合いの青に溶け入るようにして緩やかに北から南へと流れていく。花々の咲き乱れる中庭を、涼やかな初夏の風が吹き抜けた。
人気はない。
かつてはこの塔の主に仕える使用人の女たちが、思い思いに休息の時を過ごしていたという小さな庭。時には、主人そのひとが気まぐれに花を愛で木陰で書物を開く時もあったらしい。
半年前までは、それが当たり前の光景だったという。
ヴァラシュは知らない。彼はその当たり前が崩壊してから、この地を踏んだ。今、美しいはずの中庭にはどこか重苦しい空気が沈殿しているように見えた。
「カート。帰っていたのか」
行き会ったのは、同僚の騎士だった。一ヶ月に及ぶ捜索任務から昨日帰還したばかりのヴァラシュは、「ああ」と短く応えて通り過ぎようとして、ふと足を止めた。
「……エイドリーズは相変わらず?」
「まあな。仕事はこなしてるんだが、それ以外はほとんど自室に篭りきりだ。飯もまともに食ってないんじゃないか」
「そう。……悪いね、ありがとう」
男と別れ、ヴァラシュは足先を反転させた。
食堂へ向かうつもりだったが、気が変わった。
空腹を訴える腹にもう少し待てと言い聞かせ、彼は自室のある左翼の棟を目指す。途中、何人かの同僚たちと顔を合わせたが、どの顔にも諦観の色が滲んでいることに苦く笑った。これでは、ルッツが無駄に出歩きたくなくなるのもわからないでもなかった。
自室として与えられはしたものの、殆ど寝るばかりにしか使用していない部屋を通り過ぎ、斜向かいの扉を叩く。数秒後、億劫そうながらも律儀な声が微かに応えた。
「俺だよ、ヴァラシュ。入るよ」
扉を押し開き、ヴァラシュは室内へ入った。
騎士たちに与えられる部屋は、どれも似たり寄ったりの作りだ。
少々手狭な空間に、薄っぺらい灰色の絨毯と書き物机、骨董と言ってもいい程に古臭い寝台と衣装箪笥が置かれている。長くここにいる者の中には、給料で自分好みの家具や壁紙を揃える騎士もいるが、生まれた時から塔暮らしのはずのルッツ・エイドリーズの自室は、全く手を加えられた形跡がなかった。変化といえば安物の本棚が寝台の隣にちょこんと鎮座しているくらいで、しかしルッツ自身の性格を反映したように清潔で秩序に溢れた部屋だった。
それも今は、少し雑然として感じられる。物が少ないのにそう感じるということは、つまりルッツの精神が常と異なる証左に他ならない。
「……何しに来たんだ、カート。今日は休暇のはずだろう」
淡々として、感情による揺れの少ない声音だった。
ルッツは窓辺の椅子に腰かけていた。ヴァラシュからは、その顔は見えない。
「まあね。久しぶりに日が昇りきるまで寝たよ」
数歩寄れば、ルッツは目線だけで背後のヴァラシュを振り仰いだ。頬骨の高い顔の輪郭は、一ヶ月前よりも鋭利に見える。その目の、不思議な静けさ。奥底には押し殺した激情がちりちりと燻り続けていることを、ヴァラシュは知っている。
「君さ、どうせまた今日もご飯まだ食べてないんでしょ。わざわざ誘いに来てやったんじゃない」
「放っておいてくれ」
「やだよ。ほら、まーた痩せちゃってさ。行くよ、ルッツ」
「名前で呼ばないでくれ。いつ僕らはそこまで親しくなった」

序章

『――汝の血が世にある限り、この身は大地の礎となり、この魂は汝へ捧げよう。これは、我が唯一の誓約である』

かつて、世界は滅亡の危機を迎えた。
大地は裂け、風は唸り、木々は枯れ果てた。暗雲が空を覆い、太陽も月も星も掻き消した。命という命が痩せ細り、蝕まれ、死の国からは数えきれぬほどの使者が降り立った。
国の境も人種の壁も越え、すべては闇へと飲まれようとしていた。
人々に為すすべはなかった。死にもの狂いで振った抵抗の手は薙ぎ払われ、希望は絶望を呼ぶばかりだった。世界は、滅びようとしていた。
救ったのは、一人の魔女と一匹の神竜。
互いに絆を結ぶ彼らは、ある誓約によって世界を救った。神竜の死骸は大地の奥底に潜り込み、すべてを支える礎となった。その血は大地を巡り、咆哮が風を鎮め、――魂は、ただ一人の愛する人へと捧げられた。
今、この世界は眠る神竜によって保たれている。もう、ずっとずっと昔の話、それはお伽噺であり歴史であった。


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